2019.05.20
女子栄養大学 栄養学部 給食・栄養管理研究室 教授
石田裕美 先生
高血圧は、心血管病のリスクを高めることから、その発症予防、改善、重症化の予防のいずれもが重要です。高血圧には、遺伝要因と環境要因(生活習慣)がかかわっています。遺伝的要因を変えることはできませんが、遺伝的要因がかかわっている方も含め、高血圧やそれからつながる疾病のリスクを低くするために、生活習慣が重要なカギを握っています。生活習慣の中でも、特に食習慣は重要です。高血圧の方はもちろん、高血圧の遺伝素因を持つ人や正常高値血圧(130~139/85~89 mmHg)である高血圧予備群(*1)の方も、食事を含めた生活習慣のあり方を見直してみることが大切です。
食事の中で最も血圧上昇と関連するのは、ナトリウム摂取量です。私たちの食事でのナトリウムの摂取源は食塩と食塩を含む調味料です。従って、ナトリウム摂取量を食塩相当量に置き換えて考えることが必要です。日本の食文化は、食塩を多く含む発酵食品である醤油や味噌による味付けが1つの特徴となっています。このような食文化の特徴もあり、日本人の食塩摂取量は多いとされています。
欧米で行われた減塩による降圧効果を検討した大規模臨床試験では、1日6 g台前半まで食塩摂取量を落とさなければ有意な降圧が認められていません(*2)。そのため、世界の主要な高血圧治療ガイドラインでは、6 g/日を下回るレベルの減塩目標が設定されています。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2014年』でも、減塩目標は食塩6 g/日未満としています(*1)。
日本人の現在の食塩摂取量は10g程度です(*3)。1980年ころの摂取量が13g程度ですので(*4)、約20年間をかけて約3gを減少させてきたことになります。国や医療機関によるさまざまな取り組みや日本人の健康意識の高まりによるものです。
2015年からの5年間の日本人の生活習慣病予防のための食塩摂取量の目標値は18歳以上で、男性8.0g、女性は7.0g未満となっています(*2)。さらに、高血圧の改善や重症化予防のためには6 g/日未満の食塩摂取量に近づくことを目標とすべきと考えられます。
このように、高血圧の予防や治療の観点からは、今以上の減塩が必要です。塩味は食事のおいしさを構成する大切な存在でもあります。食の楽しみを損なわずに食塩摂取量を上手に減らす調理の工夫を知っておくとよいでしょう。
「減塩食は味気ない」というイメージを持っていませんか?食材の味わいを引き出して食塩を上手に減らす調理方法の工夫や食生活の秘訣をご紹介します。
「塩分を減らすとおいしく仕上がらない」「やっぱり塩気を効かせたい」「薄味にしたくない」といった料理には、塩化ナトリウム(NaCl)の一部を「塩化カリウム(KCL)」に置き換えた混合塩を使う方法があります。ナトリウム含有量が少なくても、塩味は塩化ナトリウムとほぼ同じです。
ただし、腎臓の悪い方、人工透析を受けている方は、使用にあたって医療機関に相談する必要があります。
昆布だしのグルタミン酸、かつお節や煮干しのイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸やグルタミン酸など、だしに含まれる「うま味」によって、減らした塩味を補えます。いつも使っている醤油の一部を、だし醤油などに切り替えるのもおすすめです。料理のアクセントとなる、ハーブやスパイス、レモンなども積極的に使いましょう。
ちょっとおもしろい調理方法としては、牛乳のコクとうま味を和食に利用して食塩を減らす「乳和食」(*5)、グルタミン酸を含むトマトやトマトソース、ケチャップなどを、醤油や味噌の代わりに使う「トマト減塩食」があります(*6)。料理のレパートリーを増やしつつ新しい食の楽しみに出会えるかもしれません。
塩味が極端に少ないと物足りないと感じる場合は、醤油の香りを強める加工を取り入れた食品やジペプチドなどを多く含ませることで、塩味を増強させることも報告されています(*7,8)。
「いつもの味のままで味わいたい」という場合は、食器等を変えることで必要以上に摂取してしまう食塩量を減らせるかもしれません。例えば、穴が開いたれんげやスプーン、一滴ずつ出せる醤油さしなどの活用がおすすめです(*9)。
また、自分が日頃どのような食品から食塩を多く摂取しているかを知ることも減塩に役立ちます。
日本人が多く摂っている醤油や味噌のほかに、穀類からの摂取も多いです。主食である麺類、パン類には食塩が含まれています。また、飯も白飯ではなく、味付けごはんやすしになると、主食全体に塩味が付きますので食塩摂取量は多くなりがちです。また年齢によっても傾向が異なり、小中学生では肉の加工品、大学生ではスナック菓子、高齢者では魚加工品や野菜(漬物)などから食塩を多く摂っている傾向があります(*10)。思い当たる食品がある人は、その食品や料理の取り方を意識して見直しましょう。